2006年2月号   羊飼いの少年/青山 直子

 パウロ・コエーリョの「アルケミスト」という名著をご存知ですか。

 スペインの羊飼いのある少年が、宝物を探しにサハラ砂漠を越える大冒険に挑みます。モロッコで一文なしになった後、様々な試練に打ち勝ち、ついにピラミッドまで辿り着くという壮大な物語。しかし、少年が最終的に宝物を見つけたのは、意外な場所でした……。

 15ヶ月のアフリカ一周ツーリングを終えて私が思い出すのは、この「アルケミスト」の物語です。なぜなら、私も宝探しのつもりで旅をしていたからです。

 とにかく幸せになりたかった。アフリカに行けば、きっとその達成感から幸福になれるに違いないと信じて疑わなかったのは、20代という若さゆえでしょうか。

 アフリカに行く少し前に結婚もしました。残念ながら今では離婚してしまいましたが、かつて夫だったその男性と一緒に、小さな原付バイクで、憧れのアフリカの大地をトコトコと走ったものです。

 砂に埋もれたり、悪徳ポリスに捕まったり、大怪我をしたり、本当にいろいろな事がありました。その度に、かつての夫に助けてもらっていました。そんな彼に、私が甘えすぎたのがいけなかったのでしょうね。いまは独りになって、東京の実家で暮らしています。

 アフリカをバイクで走った日々を想いだしてみたりもしますが、ここ東京の生活とはかけ離れているので、あまり現実感が伴いません。ときどき、あれは夢だったのかな? とも思います。

 そして今になって思うこと。あの頃は、幸せというのは自分の外側にあるものだと錯覚していたんですね。すてきな男性に出会って結婚することとか、バイクで海外を旅行をすることとか。そうしたものばかりを追い求め続けてきたような気がします。

 宝物を探すためにサハラ砂漠を越えた、その羊飼いの少年の気持ちが私にはよく分かるのです。しかし物語の最後で、少年が宝物を見つけた場所とは……。

 なんと彼の故郷スペインの、彼がそれまでずっと暮らしていた、実に見慣れた、何の変哲もない場所でした。

 彼は自分の足元に宝物が埋まっていたことを知らなかった。そのことを知るために、命がけで砂漠を越えなければならなかったのです。そんな遠回りをした少年を愚かしいと思うでしょうか?

 私はこの物語が大好きです。なぜなら、アフリカを走らなければ分からなかった事がたくさんあるから。

 砂嵐ってどんなもの? バオバブの木ってどんな形?
 ジャングルではどんな雨が降るの?
 心が貧しいとはどういうこと? あるいは気高いということは?
 金銭感覚の違いは? 白人と黒人の立場の違いは?
 そして私達日本人は世界の人々にどう思われている?

 それだけではありません。帰国してからも発見は続きます。離婚を経験したことで、家族というものの暖かさに気付きました。結果的に多くの友達に恵まれる機会が得られましたし、あらためて日本の文化的な深みに感動する心を持つこともできました(日本は本当にすごい。日本人はもっと胸を張って頑張って欲しいです)。

 自分はなんて素敵な境遇に生まれたんだろう、としみじみ思います。確かに、「幸せになりたい」だけが目的なら、わざわざアフリカまで行かなくても良かったのかも知れません。生まれ故郷の日本に「幸せの種」はいくらでも眠っていたわけだから。

 ああ、でもその事に気付くために、あの旅が必要だった。
 遠いアフリカでのかけがえのない体験、それは果たして「幸せ」への遠回りだったでしょうか? 私は、実は意外と近道だったのではないかと思っています。

筆者URL: http://shortie.cool.ne.jp/index-jp.html



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