2008年4月号

旅に有効期限はないのだから/あらき

 

 この原稿は2008年3月31日に書いている。つい先ほどまで知らなかったが、この日は僕にとって少し意味のある日だった。2007年度が今日で終わる、ということにはまったく関係がない。

 本日の23時59分59秒(だと思う。間違っていたらごめんなさい)をもって、10年有効の僕のパスポートが期限切れとなるのだ。

 発行年月日は1998年3月31日になっている。申請した機関は、アフリカのジンバブエにある日本大使館だった。当時使用していた、増補をしたパスポートの有効期限はまだ8年くらい残っていたが、ページがスタンプで埋まったため、新しいものへの切り替えを現地で余儀なくされた。もったいないなあと思いながら、手続きした覚えがある。それから早くも10年が経ってしまったわけだ。

 この有効期間満了日の2008年3月31日を見て僕は驚いた。というのも、海外ツーリングコラムのネタを何にしようかと頭を悩ませていたとき、なぜかパスポートのことを思い出し、久々に(7年ぶりくらいだと思う)引き出しの奥から色あせたセイフティーポーチを引っ張り出した。3年半をかけた海外ツーリングで使った、腹巻きタイプの貴重品袋だ。

 ファスナーを開いて中身を出した。米ドルの現金とパスポートが入っていた。数えると、現金は307ドル。1ドル=140円くらいのときに両替したもので、その後の円高で円に換えることができなくなり、またそのうち旅に出るのだから、そのとき使えばいいやと思い保管しておいたものだ。だがその後海外に出ることはなく、死蔵されたままになっている。パスポートも同様だ。冊子の表紙には、ポツポツとかびが生えていた。ドル紙幣もかびくさい。長期間放っておいたんだなと感慨深くなってパスポートを開いたら、有効期間満了日が目に飛び込んできた。まだ十分使えると思っていたのに、あと2時間でEXPIRE。

 何? 今日で終わりなのか?

 神様のいたずらなのかな、と思った。パスポートを久しぶりに手に取った日が、有効期限満了日。こういう作り話めいたことが本当に起こるのだ。

 長旅から帰国した当初、2、3年したらまた海外ツーリングに出かけようと考えていた。大好きなアフリカへ、サハラ砂漠へ。しかしそれはいまだに実現していない。そして、いまのところ計画する気もない。

 長旅に出ないのは、旅以上にやりたいことができてしまったからだ。そのため2、3日のショートツーリングをすることも少なくなっている。

 夢は無限に作り、片っ端から実現していくものだと僕は思っている。しかし人間には寿命があるし、明日死ぬということもありうる。結局は、やりたいことに優先順位をつけ、いまやれること、いま一番やりたいことに情熱を傾けるしかないのだと思う。

 僕はパスポートと紙幣をポーチに入れた。いくつかの夢を実現し片づけたら、また長旅に出ようという気になるだろう。その日までこれらはこのまま閉まっておこう。ファスナーを閉めながら、パスポートの期限切れなど気にかける必要がないことに僕は気づいた。旅に出たくなったら、また取得すればいいだけなのだから。パスポートに有効期限はあっても、旅に有効期限はないのだから。いつの日か僕は、またアフリカの大地に立っているはずなのだから。


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