2004年6月号 ただいま「一時」(!)帰国中/河上美穂

 同行した連れ合いからは徹頭徹尾「ただ乗り!」と罵られながらの、おはしょり世界一周ツーリング(いつかはちゃんと行きたいぞぉ南米ツーリング!)は、はっきり言って私には修業だった。

 旅のもっとも主要なツール、バイク一つとっても、ツーリングに行くために免許とったような状態の私には、乗ること自体がもうしんどい。おまけに前を走る連れ合いが私に輪をかけた方向音痴(本人がそうと自覚していないのが、またネック)で、ただでさえ苦手なUターンを何度もさせられて、それが元でケンカになったことも数知れず。ナショナルハイウエーに出ようとして、街中のバザールへ(それもインドの!)と迷いこまされたときは、ほんと、ぶちきれて「バッキャロー!!」と、絶叫。人、牛、リキシャ入り乱れた雑踏の喧騒にあっさりかき消されましたけど・・・

 だから、カップルで旅立ったライダーが、別々の姓になって帰国したとか、帰国してから別れたとか風の噂に聞くと、ご当人にお会いせずとも、しみじみわかりまする。私だって、一番楽しみにしていた南米大陸に入ったとたん、「実家の母親が入院した」という知らせを受けて、泣く泣くペルーから単身帰国したときは、内心、ほっとしたもの。これで、もう罵られなくてすむって--。

 で、帰国して一ヶ月。病院に母の見舞いに行く以外は、何をするでもなく過ぎていく日々。一種の放心状態だった私は、U氏(ありがとう!感謝してます)に誘われた海外ツーリングライダーたちのキャンプ(通称Tさんのキャンプ)で初めて会ったT氏に--彼の新しい奥さんに気兼ねしつつも--、ツーリング中に離婚したことについて、質問せずにはいられなかった。
 「あの状況では離婚以外の選択は不可能だった。でも、あれだけの経験を共にしたのは彼女だけ。しないですむものなら、それに越したことはなかった」と、T氏は淡々と答えてくれた。そうだよねえ・・・たしかに、テレビから、ツーリングで訪れた国の景色が飛び込んできたときに、
 「私たちが行ったときとぜんぜん変わってない!」
 「あそこで会ったあのおじさん、元気かなあ?」
 などと話すだけで、そのときの気分まで共有できる相手は逆立ちしたって他にはいないだろう。

 この原稿を書いている今、ニュースではイラクで誘拐された3人の日本人の事件がトップで報道されている。新聞の号外に掲載されていた、彼らのアンマンでの宿泊先は、私たちも泊まったファラーホテルだった。いまだに日本人御用達の安宿であるらしく、価格表が日本語で書かれているのがはっきりと写っている。そういえば、シリア〜ヨルダンを走っていたときは、←Baghdadの道路標識を見て、思わず左へへハンドルを切りたくなる誘惑を振り切るのに苦労したっけ。だって、アラビアンナイトの、あの地が目と鼻の先なんだよ? あの感覚は、あの場所を実際に通った人以外はわからないと思うのは、私の思い込みだろうか?

 帰国して、6年。「たかが遊び」と、とっくに地道な日常に戻った人もいるし、また新たなツーリングに出かける人もいる。そして、私はといえば、いまだにあのツーリングを自分の中で捕らえきれずにいる。今度こそ、誰からも「ただ乗り!」と罵られない南米ツーリングを目指して「一時帰国中」なのかもしれない。そうとう長い「一時」だけど・・・


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