2003年7月号 「海外ツーリングの罠」/みっき

 登山家に「あなたはなぜ山に登るのか」という問いかけをすると「そこに山があるからだ」というカッコイイ答えが返ってくるのに、海外を駆けるライダーに「なぜあなたは海外をバイクで走るのか」と問いかけても大抵「え…なんでだろ」「えーと、行きたかったから!」などとなんだかよくわからん返答が返ってきます。たまにカッコイイ返答があったとしたら、彼は事前に相当考えて「聞かれたらこう答えよう」とシュミレーションをし、その時の顔の角度まで用意していたに違いありません。

 海外ツーリング。ハッキリ言って、こりゃとんでもねえ道楽です。究極のひとり遊びです。カネも時間もべらぼうにかかりますし、その割に世界一周して帰ってきたってあんまり褒めてくれる人いませんしね、おまけにトシもとってしまいますし、お肌にもよくありません。…なのに、なんであたしたち、こんなに心も体も奪われちゃってるんでしょう。
 あたし思うに、こいつはタチの悪い恋愛に非常によく似ています。カネもかかるし仕事にも支障がでて(辞めちゃうとか)いつから好きなのか、なぜ好きなのか解らないけれど、どうしようもなく行かずにはいられません。本命(恋人や妻)と旅を天秤にかけてタチの悪い「旅」のほうを選ぶ人も後を絶ちません。旅先でたとえ酷い目に遭ってもいつかはそのことをネタに笑って話しているから不思議です。おまけにこれまた旅にどっぷりはまったタチの悪い人たちがキャンプや飲み屋で集まって「アフリカ旅いいぞお、ダイジョブ、ダイジョブ、イケる、イケる」「え? 南米旅行ってないの?イヤ〜、南米旅いいよ〜」と甘い言葉と夢のように美しい写真で更にディープな旅に引き込みます。ここまでされると海外を走ることが常識であるかのような錯覚をおぼえてしまいかねません。…おそるべし海外ツーリング。文中「旅」を「女」に変えて読めばこりゃまさに女に溺れる男以外のなにものでもありません。

 ひとつだけ、旅のいいところを述べるとすれば、人は「人生の主人公は自分自身だ」ということをともすれば忘れがちですが、旅は「自分こそが人生の主人公であり、物語のヒーローである」ということを鮮烈に感じさせてくれるものだということでしょうか。地図を見て、自分で選んだ道を自分で走り、自分で選んだ国をゆく。待ち受けるトラブルも自分で処理してゆかなければならず、決して皆が皆、カッコイイ主人公かといえばそうとは言い切れませんが。旅行記を見て同じ場所に同じ時期に行っても、絶対同じ旅にはなりません。だって主人公が違いますもの。全ては主人公である自分自身が新しい旅の物語を拓いていくのです。

 旅物語がメデタシメデタシで終わっても、人生はまだまだ続きます。あなたの旅物語が残したものは、写真や思い出、日記帳、ぱんぱんになったアドレス帳。実生活にはおよそ役に立ちそうもないものばかりです。けれどその実生活に役に立たないものが、旅のあとの生き方を、支え、変えてしまう気がするのです。朝から夜まで太陽と走った日、白よりも白い砂漠、空へと手を伸ばすサボテンの森、汚れた顔であなたを見上げた少女、託された手紙、幾千の出会いと別れ。…この強烈な記憶はこの先ずうっとあなたを捕らえて離してはくれず、次の旅へと急がせるでしょう。本当にタチが悪いことこの上ない…。
 さて、それではこのへんでもう語るのは終わりにして、あたしゃ語るより旅に出ることにしようかと思います。そして、あなたとは世界のどこかの路上でお会いましょう。

みっきさんのホームページ、旅蝶もご覧ください!!